

役所の窓口と同じで、大企業病にかかった会社の幹部は、頭を使うほど人生の浪費はないと考えているようなものである。
しかし頭は、人間の身体と一緒で、日常使っていないと必ずガタがくる。
頭がボケてしまうはずである。
ふだん頭を使ったことのない幹部がにわかに知恵を出せ、ソフトが大事だといいだすからおかしなことになる。
ニ軍三軍の戦力化ができるかパートとか契約社員に対してもそのことがいえる。
これらを正社員ではないからと、むやみに差別したり、ただのコストダウンのつもりで使っている企業は、あまり伸びない。
もうこれからのソフト化社会はニ軍、三軍が大きな戦力だ。
こういうつもりになっている企業でないと伸びない。
情報・サービス化社会への企業の対応は、一軍だけではむずかしい。
ましてこれからは社内にそれほど正規社員を抱え込めないから、逆に、二軍、三軍を鍛えることが必要である。
ガチガチの序列主義の会社は、とうてい二軍三軍を戦力化することはむずかしい。
マクドナルドでも、ディズニーでも、パートタイマーの使い方に成功しているのは二軍、三軍にまで、自分が「主役」だという意識をもたせてやっているからである。
自分が主役という意識を認めなかったら、誰だって本気に働くわけはない。
男性社員だってお茶汲みと電話の応対ぐらいしかやらせてもらえなかったらアホらしくなる。
ふだん女性にアシスタント程度の仕事しかさせないで、女性社員は働きが悪いというのは、勝手な男性の理屈である。
これからのリーダーはやはり心のキャパシティが大きくて、しかも能力のある人が望ましい。
ただの実力至上主義者も、能力なき人格者も、必ずといってよいほど部下を殺してしまうか、それとも部下を私兵化していくか、この二つになりがちである。
極端すぎるいい方かもしれない新人類を考えるとき、案外見逃されているのが、ようやく日本で「察しの文化」の時代が終わったことである。
察しの文化というのはムラ社会独自の行動原理のようなものである。
一生懸命みんながかぎられた田畑を耕して、毎日同じメンバーとつき合っていた、こういう狭いムラ社会の名残である。
だから悪い言葉でいえば日本の会社人間はホモ仲間である。
腹のすり合わせや察しだけでものがわかり、お互いに理解しあえる。
ところがいまの新人類は、われわれのようなまぎれもない農耕民族ではない。
しかも会社以外に楽しい場所をいくらでももっているから、会社の中の察しの文化が崩れてくるのもある意味では当然である。
そのことがわからない古いタイプの管理職が、いまの新人類を「指示待ち社員」とよぶ。
昔のリーダーは、あうんの呼吸で人をうごかしたが、これからは、はっきりものをいった方が極端な話だが、ある会社で、こういうケースがあった。
新人類がネクタイもせずに出勤したら、課長が「おまえさんえらいなあ」といってニヤニヤ笑っている。
「おや、そうですか」といってべつに相手にもせず新人類がさっさと引き下がった。
ところがしばらくしたら課長が猛烈に怒りだして、「会社をなめんな」、きちんとネクタイしろ」と声をはり上げて怒鳴った。
しかしくだんの新人類は、自分がどうしてそんなに怒鳴られているかがよくわからない。
彼にいわせると、「そうならそうとはじめからはっきりいえ」ということである。
これはどっちがいいとかいう問題ではなくて、察しの文化がかわりだしたことをやはり意味している。
やはりコミュニケーションは言葉できちんとやる時代に入ったのである。
察しの文化の基盤が崩れてきたことは問題ではあるが、しかし国際化時代ともなれば、察しの文化だけではどうにもならない。
あうんの呼吸や腹のすり合わせで、アメリカ人も日本人もかならずわかり合えると思うから悲劇的な結果をうむ。
国それぞれのコミュニケーションの違いを認めていかないとむずかしい。
もちろん旧人類と新人類は同じ日本人だから、コミュニケーションの回路がつながっているところもあるが、断絶しているところもある。
女性でもそうである。
男と女には、やはりコミュニケーションのやり方にはそれなりの違いがある。
これまでになじんできた察しの文化だけでは、だんだん適用しなくなってきていることを旧人類も大らかに認めなければならない。
つまり、新人類や女性社員に対してきちんと指示できる上役が人気がある。
やたらに高圧的な上役や、「〇〇ちゃん」と猫なで声の上役は嫌われる。
ワンパターンの会社人間というホモ仲間の察しのコミュニケーションはどんどんだめになってきている。
コミュニケーションのやり方そのものが変わってきている。
もっとはっきりモノをいった方がよい。
察しの文化がほろびていくことを心配する人があるが、この国際化時代に、そういうものでいつまでもやっていこうとするから、固と国の摩擦が激化しているのである。
「人をほめるときは、その場ではっきりほめてほしい。
もちろん叱るときはその場できちんと叱ってくれてよい」と、新人類も女性もいっている。
どっちつかずの態度ほど人気がない、勤務中に叱って、帰りの一杯飲み屋で、「さっきみんなの手前、君を叱ったが、じつはあれはぼくの本意ではない。
ぼくのつらい立場もわかってくれや」などと昔はやっていた。
新人類のように「お酒など一緒に飲みに行きたくありません」といい出したら、古いタイプの上司は、どうするのだろうか。
やはりいうべきことはきちんといえばよい。
ちょっと手きびしすぎるいい方かもしれないが、中高年が勤務中にもう少しきちんと論理のコミュニケーションができるようになったら、いくらでも夜の暇な時間などできる。
仕事も遊びも会社の仲間と一緒、家に帰れば「メシ、フロ、ネル」の毎日だから、これじゃ、察しのコミュニケーションだけで、もうヘトヘトになり、まともに勉強する時間などあるわけはない。
Oさんのケースでおもしろかったのは、あるジャーナリストがOさんに「あなたは、これだけ猛烈に忙しいビジネスマンなのに、よく本を書いている暇がありますね」といったとき、彼は「私はサラリーマンのむだは一切やっていない。
意味のない夜のお付き合いなどしない。
麻雀も、ゴルフもやらない。
仕事を終わればまっすぐ家へ帰る。
あってもなくてもいいような夜の会合には出ない。
だから勉強する時間も、モノを書く時間もたっぷりある」とあっさりこたえたことである。
Oさんというのはいわば新人類的エリートであり論客だからこそ、そういうことができるのだといえないこともない。
ともあれ、そこまで極端になることもないだろうが、日本の管理職、会社人間が忙しくて勉強する暇がないというのもやはりフィクションである。
むだな時間などいくらでもある。
むしろ自分から忙しくしている面が非常に多い。
仕事も遊びも会社の仲間と一緒という考え方そのものが、新人類の登場と女性を迎えて空回りしているのである。
サラリーマンがしぶとく生き抜いていくためには、自分のシナリオが書けて、自分流のスケジュールをもつことを、大事にすべきである。
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